会津には、長い時間をかけて受け継がれてきたものづくりの文化があります。なかでも「会津漆器」や「会津塗り」は、この土地を代表する仕事のひとつです。私たちが日々の暮らしのなかで手にするお椀やお皿。その美しさの背景には、木を挽き、器の土台をつくる「木地師」の存在があります。
今回お話を伺ったのは、ヒューマンハブ天寧寺倉庫でものづくりに取り組む、挽物工房 月桃の木地師・岸野和貴さんです。岸野さんは、お椀や皿、吸物椀、茶道具など、会津漆器や会津塗りのもとになる木地を製作しています。木と向き合い、刃物を整え、ひとつひとつ手の感覚で仕上げていく。その静かな仕事の中には、派手ではないけれど、確かな情熱がありました。
木と向き合い、会津漆器の土台をつくる仕事

岸野さんが手がけているのは、主に漆器の丸物木地です。お椀やお皿、吸物椀、茶道具の棗や茶筒など、丸いかたちの器を中心に製作しています。
「木地」とは、漆が塗られる前の木の器そのもののこと。つまり、会津漆器や会津塗りの土台になる部分です。完成した器が注目される一方で、その前段階を担う木地師の仕事は、普段あまり表に出ることがありません。しかし、木地がしっかりしていなければ、良い器にはなりません。木の状態を見極め、その木に合った削り方で整えていく。そんな地道な仕事が、器の美しさや使い心地を支えています。
岸野さんは、ものづくりで大切にしていることについて、こんなふうに話してくれました。
「木であったり、漆であったり、そういうものは生き物を扱っているような気持ちで、いつも向き合っています。同じ材種の木でも、削っていくといろいろな木地があって、同じものは一つもないので、一つひとつそういう気持ちで続けていければと思っています」
この言葉には、岸野さんの仕事観がまっすぐ表れているように感じます。木を単なる材料としてではなく、個性を持った存在として受け止めていること。だからこそ、ひとつひとつに対する手の入れ方も変わるのだと思います。会津漆器や会津塗りの美しさは、こうした土台の部分にある丁寧なまなざしによって支えられています。
遠回りのようでいて、自分の仕事にたどり着いた道のり

岸野さんは1990年生まれ、東京都池袋出身。現在は会津若松に暮らし、会津での生活は6年目になります。
もともとは建築大工として働いていました。その後、長野県安曇野市へ移り住み、スプーンやフォークなどのカトラリーづくりにも携わるようになります。そうしたものづくりを続ける中で、「自分が本当にやりたいことは何か」を考えるようになったそうです。
その先にあったのが、もともと好きだった漆器の世界でした。長野で木地師の仕事に触れたことがきっかけとなり、その後は石川県で修行を重ね、さらに会津若松の木地屋で1年間学ぶことに。東京、長野、石川、そして会津へ。いくつもの土地で経験を積みながら、少しずつ今の仕事へとつながっていきました。
華やかな経歴を語るのではなく、自分の手で確かめるように仕事を選び取ってきた道のりだったのだと思います。その歩みがあるからこそ、今の岸野さんの言葉には、静かな説得力があります。
木地師の技術は、刃物を合わせるところに宿る

岸野さんのお話の中で、特に印象的だったのが「刃物を合わせること」の大切さでした。
木地師の仕事は、ただ木を削るだけではありません。木の種類や状態によって、使う刃物も当て方も変わります。硬い木もあれば、やわらかい木もある。同じ木でも、その時々で状態は違う。だからこそ、木に合わせて刃物を調整していくことが欠かせないそうです。
岸野さんは、この仕事の核心ともいえる部分を、こんなふうに話してくれました。
「木地に対して刃物を合わせるという仕事なので、そういったところでの刃物の調整であったり、木地の挽き方っていうのは常に大切にしているところです」
さらに、刃物そのものについても、こう続けます。
「刃物鍛治は、木地師にとってもっとも基礎となる仕事で、刃物を自分で作らなければ木地を挽くことはできません。鍛冶場で鋼を叩き、延ばし、焼き入れ、焼き戻しを行い、刃付けから研ぎまで、全ての工程を一貫して手がけ、1本の刃物を仕上げます。
刃物鍛冶っていうのは本当に基本中の基本の仕事なので、刃物が作れないと木地は挽けないっていうような世界ではあります」
岸野さんの手元には、およそ30種類ほどの刃物があるそうです。ただ道具を持っている、ということではなく、それぞれの木に対して、どの刃物をどう使うかを見極めることが重要なのだといいます。
「何の木でも、この刃物でいいっていうのはなくて、やっぱりその木に対してどういう刃物を使っていくか。そういった基本的な刃物づくりっていうのが、すごく大事な仕事になっていくなと思います」
会津漆器や会津塗りというと、どうしても塗りや仕上げの工程に目が向きがちです。でも、その前にはこうした見えにくい技術の積み重ねがあります。岸野さんの言葉からは、「木が中心にある」という感覚が一貫して伝わってきました。自分の技術を押し出すのではなく、まず木をよく見ること。その姿勢が、木地師という仕事の深さを物語っています。
ヒューマンハブ天寧寺倉庫だからこそ、会津のものづくりがひらかれていく

岸野さんがヒューマンハブ天寧寺倉庫に入居するきっかけは、よく通っていたカレー屋さんに、自分でつくった木地をプレゼントしていたことだったそうです。その作品を見て「会津でやってみないか」と関社長から声をかけられたことが始まりでした。
最初からすぐに本格始動したわけではなく、制度や環境を確かめながら少しずつ活動を広げ、2026年4月から本業として本格的にスタート。現在はご自身のろくろを設置し、この場所でものづくりを続けています。
ヒューマンハブ天寧寺倉庫の魅力について伺うと、岸野さんは設備面のありがたさとあわせて、「人とのつながり」が生まれることの面白さを話してくれました。
「本来、木地師って木地小屋で一人で作業してる方が多いので、ここはガラス張りで、お客さんであったり、スタッフの方だったり、業界の方も含めて、自分の仕事が常に見られている状態ではあるんです。そういったところで、この仕事に興味を持ってもらえる機会も増えますし、全然他ジャンルの、僕らがやってるのは本当にアナログの仕事ですけど、デジタル関係の人が興味を持ってくれたりとか、いろんな分野の方とつながれるのは面白いですね」
この場所は、ただ作業をするためのスペースではなく、ものづくりが外にひらかれていく場所でもあるのだと思います。さらに岸野さんは、会津で仕事をする意味についても、率直に語ってくれました。
「この土地でやっている以上、この土地の木を使って、この土地の人たちに売れたら、一番理想ですね」
その言葉には、会津のものづくりを会津の中でつないでいきたいという、岸野さんの願いがにじんでいます。木地師がいて、塗師がいて、材料も会津のものがあって、それが会津の人に届いていく。そんな循環が、この土地らしい豊かさなのだと思います。
会津でものづくりに挑戦したい方は、ヒューマンハブ天寧寺倉庫へご相談ください
木と向き合い、刃物を整え、会津漆器や会津塗りの土台をつくる木地師・岸野和貴さん。その仕事から伝わってきたのは、強い言葉ではなく、素材と仕事に対するぶれない誠実さでした。
そして最後に伺ったこれからの目標にも、岸野さんらしさがよく表れていました。
「椀木地や蓋物、コップなら任せたい」と信頼していただけるような木地師になっていきたいと思います。
大きく飾るのではなく、自分の仕事で選ばれたい。その言葉には、日々の積み重ねの先にある覚悟が感じられます。
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ヒューマンハブ天寧寺倉庫には、そんなつくり手の挑戦を受け止める空気があります。設備を使えるだけでなく、異なる分野の人とつながり、仕事をひらいていけることも、この場所の大きな魅力です。会津でものづくりに挑戦したい方、制作活動の拠点を探している方、地域に根ざした活動を始めたい方は、ぜひヒューマンハブ天寧寺倉庫へお問い合わせください。新しい一歩が、この場所から始まるかもしれません。
入居者情報
挽物工房 月桃
木地師 岸野 和貴 / Kishino Kazuki
〒965-0805 福島県会津若松市天寧寺町7-38
Human Hub天寧寺倉庫木地の制作、贈答用のご相談はお気軽にお電話ください!
080-2677-7385(平日8:00-18:00)
「会津の豊かさ」を、ご自宅でも。
ヒューマンハブ天寧寺倉庫は、会津の暮らしの中で育まれてきた手仕事や道具、食文化を、次の世代へつないでいくローカルハブです。
ここに並ぶものは、ただ「買うためのもの」ではありません。 作り手の想い、使い続けるよろこび、暮らしの豊かさを感じられる背景ごと、お届けできたらと思っています。
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