ヒューマンハブ天寧寺倉庫の一角で、丹治(たんじ)さんは一杯ずつ丁寧に珈琲を淹れています。店内には、会津のものづくりや暮らしにまつわる商品が並び、訪れた人は珈琲を片手に、ゆっくりと空間を楽しむことができます。
丹治さんにとって珈琲は、味だけで完結するものではなく、焙煎、抽出、音楽、店内の空気、人との会話が重なって生まれる、ひとつの心地よい時間です。2001年に郡山でカフェを始めて以来、丹治さんが大切にしてきたのは、珈琲そのものと、珈琲が生み出す空間でした。
珈琲を飲みながら、ゆっくり過ごせる場所

丹治さんがヒューマンハブ天寧寺倉庫で珈琲を提供し始めたのは、2022年11月です。屋号は、PLAY TIME COFFEE & ROASTER。ここでは、自家焙煎した珈琲豆を使い、ハンドドリップの珈琲やアイスコーヒー、カフェオレを提供しています。
丹治さんが見つめているのは、カップの中の味だけではありません。珈琲を待つ時間、店内に流れる音楽、棚に並ぶ商品、隣の席から聞こえる会話、マスターとの短いやり取り。そうしたものが重なったときに生まれる「その場の空気」までを大切にしています。
2001年に郡山でカフェを始めたときも、丹治さんが惹かれていたのは、珈琲そのものと同じくらい、カフェという空間でした。
当時、福島県内では昔ながらの喫茶店が少しずつ減っていたといいます。一方で、東京ではカフェブームが広がり、珈琲、音楽、食事、インテリアを組み合わせた新しいカフェ文化が生まれていました。
丹治さんは、その空間づくりに強く惹かれます。
珈琲を出す。音楽を選ぶ。食べ物を用意する。お客様が過ごす時間を心地よく整える。丹治さんにとってカフェは、自分の感性を表現できる場所でした。
だからこそ、ヒューマンハブ天寧寺倉庫で淹れる一杯にも、丹治さんらしい空気があります。珈琲を飲みに来たはずなのに、気づけば少し長く座っていたくなる。そんな時間を、丹治さんの珈琲はそっとつくっています。
深煎りでも重くしない。飲む人に寄り添う焙煎

丹治さんの珈琲は、深煎りを軸にしながらも、飲み終わりに重さを残さない味わいが特徴です。
現在、基本としているのは、エチオピアとフレンチブレンドです。エチオピアは単品の豆を使い、香りが立つようにフルシティ程度で焙煎しています。フレンチブレンドは複数の豆を組み合わせ、深煎りでありながら、苦味がすっと消えていくようなマイルドな味わいを目指しています。
丹治さんが大切にしているのは、自分の好みだけを強く押し出すことではなく、長く珈琲を飲み、焙煎し、淹れてきた経験をもとに、お客様と共有できる味の着地点を探すことです。
専門性を大切にしながらも、飲む人を置き去りにしない。その姿勢が、丹治さんの珈琲にはあります。
珈琲豆は、状態が変化する素材です。同じ銘柄の豆でも、収穫時期や保管状態によってコンディションは変わります。そのため、フレンチブレンドの中身や配合も、常にまったく同じではありません。
丹治さんは、その時々の豆の状態を見ながら、自分の頭の中にあるフレンチブレンドの味わいに近づけていきます。種類をたくさん並べるよりも、鮮度を保ち、豆の力が出る状態で提供することを優先する。そこに、ロースターとしての誠実な姿勢が表れています。
「おすすめは、フレンチブレンドです」
深煎りらしい苦味はありながら、その苦味は口の中に長く残らず、ゆっくりと消えていきます。甘さ、香り、苦味の輪郭を残しながら、飲み終わりはやわらかい。酸味が苦手な方にも、飲みやすい一杯です。
深煎りの珈琲が好きな方はもちろん、「珈琲は少し苦手」と感じている方にも、一度飲んでみてほしい味わいです。
丹治さんが選んだKONO式という抽出法

丹治さんの抽出には、KONO式という日本のドリッパーが使われています。
深煎りの珈琲に対して、丹治さんはKONO式が合うと考えています。フルシティからフレンチ程度の焙煎では、香り、苦味、甘さ、余韻のバランスが大切になります。その奥行きをペーパードリップで引き出すために、丹治さんはKONO式を選んでいます。
同じ豆でも、焙煎で味は大きく変わります。さらに、抽出によっても印象は変わります。
どう焼けば甘さが出るのか。どう焼けば酸味がやわらかくなるのか。どの抽出で、深煎りの重さを抑えながら奥行きを出せるのか。
丹治さんは、豆の情報を参考にしながらも、最後は自分の感覚で判断します。産地や精製方法の説明だけで珈琲を決めるのではなく、その豆をどう仕上げたいのかを考えながら、焙煎と抽出に向き合っています。
「アイスコーヒーでは、香りの立ち方と余韻を大切にしています」
冷たい珈琲は、雑味が目立ちやすくなります。そのため丹治さんは、アイスコーヒーではすっきりと飲める透明感を意識しています。冷たくしても重くならず、苦味だけが残らない。暑い日でも、自然に飲み進められる味わいです。
丹治さんの珈琲は、強い個性で驚かせるというより、飲むほどに静かに伝わってくる珈琲です。深煎りなのに重くない。苦味があるのに、角が立たない。香りや余韻はありながら、飲み心地はやわらかい。
そのやさしい味わいに惹かれて、丹治さんの珈琲を楽しみに訪れるお客様もいます。豆を買うだけでなく、「ここで丹治さんが淹れた一杯を飲みたい」と思わせてくれる珈琲です。
会津で生まれた縁と、ヒューマンハブ天寧寺倉庫での一杯

丹治さんは二本松市の出身です。ご両親の仕事の関係で福島県内を転々とし、高校時代の3年間を会津で過ごしました。
ヒューマンハブ天寧寺倉庫とのつながりは、その高校時代の縁から生まれました。
斎藤清美術館で行われた珈琲にまつわるイベントに参加した際、丹治さんは会津高校時代の同級生であり、現在は弊社代表を務める関と、約30年ぶりに再会します。そこで、丹治さんが今も珈琲の仕事を続けていることを伝えたことをきっかけに、会津でのイベントやリコードとの関わりが少しずつ広がっていきました。
その後、ヒューマンハブ天寧寺倉庫が始まるタイミングで、丹治さんはこの場所で珈琲を提供することになります。
店内には、会津のものづくりや暮らしにまつわる商品が並んでいます。観光で訪れた方、近くに住む方、昔から丹治さんの珈琲を知る方。さまざまな人が、この場所で一杯の珈琲を飲みながら、それぞれの時間を過ごしています。
丹治さんにとって、珈琲と音楽は切り離せないものです。
これまで音楽イベントで珈琲を提供したり、自身でライブ企画を行ったりしてきました。店内に流れる音楽も、丹治さんがつくる空間の一部です。
珈琲を飲む。音楽を聴く。商品を眺める。少し会話をする。
その一つひとつが重なって、ヒューマンハブ天寧寺倉庫で過ごす時間になります。丹治さんの珈琲は、その時間の中心にあります。
まとめ

丹治徹さんの珈琲には、焙煎や抽出の技術だけでなく、空間を心地よく整える感性があります。
深煎りでありながら、重くしない。苦味を出しながら、角を立てない。KONO式で奥行きを引き出しながら、飲む人が構えずに楽しめる一杯に整える。
その背景にあるのは、丹治さんが長く大切にしてきた「空間をつくる」という考え方です。
珈琲、音楽、会話、店内の空気。カップの中の味だけでなく、その場で過ごす時間ごと心地よく整える。丹治さんにとって珈琲は、空間をつくるための中心にあります。
丹治さんのコーヒーを目当てに訪れる常連客もおり、その一杯や人柄に惹かれる人が、少しずつ増えているようです。
ヒューマンハブ天寧寺倉庫を訪れたら、ぜひ丹治さんの珈琲を飲んでみてください。
豆の香り、KONO式で淹れられる一杯、流れる音楽、店内の空気。そこには、実際にその場所へ行かなければ味わえない、「丹治さんの珈琲」があります。
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一杯の珈琲を淹れるために、豆の状態を見極め、焙煎を調整し、丁寧に抽出する。そして、流れる音楽や店内の空気まで含めて、お客様が心地よく過ごせる時間をつくる。
丹治徹さんが向き合っているのは、珈琲の味だけではありません。その一杯を味わう時間、その場に流れる空気、その場所で過ごした記憶まで大切にしながら、日々カウンターに立っています。
印象的だったのは、「珈琲を飲みに来る」というよりも、「その場所で過ごす時間を楽しんでほしい」という丹治さんの考え方でした。
一杯の珈琲をきっかけに、音楽に耳を傾ける。店内をゆっくり眺める。会話を楽しむ。そんな何気ない時間も、丹治さんが大切にしている「カフェ」という空間の一部です。
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